預金

「人生100年時代」というワードが、ほぼ必ず「資産運用」とセットで使われている今日この頃。政府も、老後の生活は自己責任で、と言わんばかりに、「貯蓄から運用へ」と旗を振っています。確かに、大手銀行の普通預金の金利は現在0.001%、定期預金でも1年物から10年物まで0.01%といったところです。これでは資産を増やすことは不可能で、むしろATM使用料などの手数料で目減りすることを防ぐのに苦労するほどです。そのうえ、デフレを脱却しつつある今、預金だけでは物価の上昇分だけ資産が目減りしていくことも心配しなくてはいけません。 

2017年1月から、20歳から59歳なら基本的に誰でも加入が可能になって、注目されているiDeCo(イデコ)。税金面で非常に優遇されている確定拠出年金制度ですが、最近興味深い動きがみられています。イデコでは加入者本人が運用対象を選びますが、初期設定では投資対象が定期預金などといった元本確保型になっている金融機関がほとんどでした。しかし、初期設定の投資対象を価格変動のある投資信託にするところが出てきているのです。つまり、特に何も指定しなければ、元本が確保されていない運用を始めるように誘導されているとも言えます。また今年5月の制度改正で、金融機関には元本確保型の商品を提供する義務も撤廃されました。こうした動きの背景には、長期の資産形成には預金だけでは十分でなく、リスクを取った運用が必要であるとの認識が社会的に広がっていることがあると見られます。

確かにリスクとリターンは裏表の関係であり、運用利回りを上げるためには何らかのリスクを取る必要があります。ただ、運用におけるリスクとは何なのでしょうか?リスクを認容するためには、その正体を知っておく必要があると思います。

運用におけるリスクには、大きく分けて3つ挙げられます。
① 市場リスク
② 信用リスク
③ 流動性リスク

①の市場リスクとは、株価や投資信託の基準価額などが上下する価格変動リスクや、為替リスクなどを言います。

②の信用リスクは、債券や株式の発行体の信用力が悪化することによって、債券価格や株価に悪影響を与えるリスクです。

そして③の流動性リスクは、運用商品をすぐに、適切な価格で、現金化できないリスクです。

資産運用を行う上では、どれか一つのリスクが突出して大きくならないよう注意しながら、バランスよい分散投資を行うことが必要となります。

そして預金というのは、①と③のリスクがゼロであるという特徴を持つ運用方法なのです。
(1金融機関当たり1000万円とその利子を超える預金はペイオフで保護されないため、②信用リスクはゼロではないと考えられます。)

株式は証券取引所が開いている時ならいつでも売却できますし、多くの投資信託もほぼ毎日売却を受け付けています。その意味では流動性リスクは低いと言えますが、実際には見た目ほど低いとは言えません。例えば急な出費が必要となったときに、投資信託を売却してすぐに資金を捻出できるでしょうか? 技術的には可能なのですが、その時に少なからぬ含み損が発生していたらどうでしょうか? 売却して実損を出すのは避けたいのが人情であり、他に資金が無いかと思いあぐねる人が多いのではないかと思います。①の市場リスクは、長期運用だから許容できるリスクです。値上がりするのを待つことで、損失を回避できるためです。逆に、待てる時間を持つためには、いつでも売れるわけではないという、③の流動性リスクも取っているとの認識を持つことが必要だと思います。

預金は、そんな市場リスクと流動性リスクを取っている運用を補完してくれる格好の運用方法なのです。少しでも運用成績を上げようとして、手元の資金を全て株や投信で運用するのはかえって失敗する可能性が高まります。遠回りに思えても、使う予定のある資金に加えて、生活費の3か月から6か月分程度の資金はまず預金で用意してから、市場リスク等のある運用は始めた方がよいと思います。世の中の風潮は少し運用重視に傾いている感じがありますが、預金も長期運用を支える立派な運用方法の一つなのです。

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