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米国から経済制裁を受けているトルコが、米国債の売却を続けています。売りは6月までに8か月連続となっており、この間の減少率は50%を超えました。6月の保有額は288億ドルとなり、米国財務省が「主要海外保有者」とみなす際の基準である300億ドルをも遂に下回りました。トルコリラは制裁発動前と比べて40%以上下落しており、通貨防衛のために米国債を売って、ドル売り・トルコリラ買いに動いていることが想像されます。


ロシアが米国債の保有を84%も減額

そんなトルコ以上に米国債の保有額を減らしているのがロシアです。
先月の米国財務省の発表によると、6月のロシアの米国債保有額は149億ドルにまで減少しました。3月には約1000憶ドル近く保有していたので、そこからなんと84%もの減少です。こちらの背景にも、ロシアのクリミア侵攻を受けて米国が発動した対ロシア制裁があると見られます。今月には、3月の英国でのロシア人スパイ殺害事件にロシア政府がかかわっていたとして、制裁がさらに拡大されました。こうした米国側の動きを受け、今後米国債を自由に取引できなくなることを懸念したロシアが保有の縮小に動いたという見方です。


ロシアは代わりに金の購入を増加

そしてロシアが米国債の代わりに購入しているのが金です。IMFのデータを分析したブルムバーグの記事によると、7月には昨年11月以来の多さとなる26.1トンの金を購入し、その保有総額を2170トンとしたと言います。これは、金をとても好むとされる中国やインドよりも多く、今や世界の中央銀行の中で5番目に多い保有額です。金額では774億ドル相当となり、4580億ドル相当ある外貨準備高の約17%を占める計算です。一方米国債は、財務省の発表を額面通りに受け止めれば、ロシアの外貨準備の3%を占めるにすぎません。ロシアの、ドルから金へ、というシフトは鮮明です。

因みに、「額面通り」と書いたのは、ロシアが810億ドルもの米国債を本当に売却してしまったわけではない可能性もあるためです。預け先を米国内から他国へ変えた場合も、ロシアの持ち分は見かけ上減少します。実際、カストディ業務の発達しているベルギーやケイマン諸島の米国債保有高は、3月から6月の間にそれぞれ292億ドルと317億ドル増加しました。ただ、それが全部ロシアからの新規預かり分だと仮定しても、ロシアのドル離れの方針はやはり否定しようがありません。


金以外にも中国債券に向かっている可能性も

金へのシフトは鮮明ですが、米国債を売却した資金が全て金に向かったわけではなさそうです。先に、ロシアは7月に26.1トンの金を購入したと書きましたが、これはドル換算では約10億ドル程度であり、米国債の売却分をかなり下回ります。またロシアは、金以外に中国債などを購入しているという見方があります。これについては公表されたデータは見かけられませんが、本当だったとしても違和感はありません。ドル支配からの脱却を目指している点では中国とロシアは同志であり、中露間貿易で人民元建て決済を増やそうともしているためです。因みに、人民元建て債券市場は今や世界第3位の規模にまで成長しています(債務の多さの裏返しでもあるのですが)。


ベネズエラやイランは、仮想通貨でドル迂回を画策

米国が基軸通貨であるドルを武器に他国に制裁を科すほどに、相手国はドルの支配を受けない経済体制の構築を目指すのは当然と言えます。現在超ハイパーインフレに苦しんでいるベネズエラでは、昨年12月に、同国に埋蔵される原油の価値を裏付けとする独自仮想通貨「ペトロ」を発行すると発表しました。これに対し米国は、早速今年の3月に米国民にペトロの取引を禁止しており、ペトロの流通がうまくいく公算は高くないと見られます。しかし、ドルを迂回する方法として仮想通貨を検討する国は今後も出てくる可能性はあります。タイム誌によると、ペトロの開発に関してはロシアが支援を行っていたといいます。ロシア自身がルーブルの仮想通貨を作ることを想定し、そのための実験として関与したというのです。またイランにも仮想通貨構想があり、そこでもロシアが協力していると示唆するロシアやイランのメディア報道があります。


中国の動きでドルの一極体制は変わるのか

ただ、圧倒的なドルの支配力の前では、そうした動きはゲームチェンジャーにはまだなりそうにありません。そこでやはり注目されるのは、米国との貿易戦争が泥沼化している中国です。6月時点では多少前月より米国債の保有を減らしていたものの、中国はまだ最大の債権者となっています。中国の保有額が巨大であるだけに、逆に中国は米国債を売却できないという見方もあります。米国債相場が大幅に下落すると中国にも影響が跳ね返ってくる懸念があるほか、うまく売却できてもその資金を運用する代替の市場が見当たらないことなどがその理由です。しかし、トランプ政権が禁じ手とも見える行動を繰り返して中国を追い詰めるようなら、中国も想定外の反撃に出る可能性は否定しきれません。

ロシアやイラン、ベネズエラ、トルコなどは、力添えを求めて中国に接近しています。こうした国々との間で人民元建て決済が進めば、ドル一極体制にも小さな綻びが出る可能性があります。中国が米国債の売却を行えば、米国の金利も通貨も不安定化し、他国も外貨準備の構成を考え直すかもしれません。これまでの常識外の政策を繰り出すトランプ政権に、仮想通貨の台頭や中国の強大化が加わって、今後の金融市場の在り方にはより柔軟な想像力が求められるようになってきたように思います。

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