今年は世界的にM&Aが活発となっています。米調査会社トムソン・ロイターによると 、今年1月―9月のM&A(買収・合併)は3兆2484億ドル(約370兆円)となり、過去最高となりました。総額が大きいだけでなく、大型案件の多さも今年の特徴です。100億ドルを超す案件は年初来9月末までに40件あり、昨年同時期と比べて7割増しとなっています。国内勢でも、武田薬品がアイルランド製薬大手シャイアーを約460億ポンド(約6兆8千億円)で買収し、大きなニュースとなりました。こうしたM&Aの増加や大型化の背景には、技術革新の流れが速い中、多くの企業が時間を買う戦略に打って出ていることがあると見られます。しかしそれ以上に重要な前提となっているのが、世界的な資金調達の容易さです。
投資適格級ぎりぎりのBBB格社債が大幅に増加
多くの先進国で緩和的な金融政策が長らく続き、投資家は利回りを求めてよりリスクをとる傾向をここ数年強めてきました。このため、借入れを増やして財務レバレッジを高めている企業でも以前より容易に資金調達ができるようになり、これが巨額なM&Aを可能にしていると言えます。さらに言えば、借入資金を自社株買いや配当の支払いに充てる企業も増加しています。ただし債務の増加が財務内容を悪化させることは間違いなく、その結果、そうした企業の格付は通常下がる可能性が高まります。
多くの先進国で緩和的な金融政策が長らく続き、投資家は利回りを求めてよりリスクをとる傾向をここ数年強めてきました。このため、借入れを増やして財務レバレッジを高めている企業でも以前より容易に資金調達ができるようになり、これが巨額なM&Aを可能にしていると言えます。さらに言えば、借入資金を自社株買いや配当の支払いに充てる企業も増加しています。ただし債務の増加が財務内容を悪化させることは間違いなく、その結果、そうした企業の格付は通常下がる可能性が高まります。
格付けは、信用力によって最高評価のAAA(或いはAaa)格から、最低評価のC格にまで分けられます(格付けの表記は格付け機関によって若干異なります)。格付けが低くなるほど、その企業の調達コストは一般的に高くなりますが、中でも重要な節目はBBB格を下回るかどうかです。これを下回る格付けはジャンク級(投資不適格級)とされ、投資対象としない投資家が一気に増えるためです。このため、事業拡大には債務増大を厭わない企業であっても、BBB格は通常死守したいと考えます。そして今、そのBBB格の企業が非常に増えているのです。
BBB格企業の債務返済能力を過大評価していないか
ブルムバーグ社の記事によると、米国ではBBB格の社債残高が2008年末比の3倍以上となり、約2.5兆ドルになったといいます。米ドル建て投資適格社債で構成されるブルムバーグ・バークレーズ指数の中にBBB格の社債が占める比率も、今や49%と過去最高の水準にまで上昇しています 。つまり、約半分がジャンク債手前ぎりぎりの格付けとなっているということです。しかも、このBBB格の基準が以前より甘くなっているのではないかと指摘する専門家も少なくありません。格付けの判断は多面的に行われ、格付け機関によっても結果が若干異なる場合もあります。このため単純な比較は難しいものの、少なくとも債務が利益の何倍になっているかを示すレバレッジについては、従前よりも格付け機関の評価は甘くなっているとの指摘は注目されます。例えば、米国投資会社モルガン・スタンレーのリサーチによると、BBB格企業の平均レバレッジは2000年に1.7倍でしたが、2017年には2.9倍にまで上昇しました。格付け機関がレバレッジに寛容になってきた背景には、格付け機関が企業の返済意志や、過去の返済実績などをより重視するようになってきたためだろうと、10月11日付の前述のブルムバーグ記事 は指摘しています。確かに、世界経済はこれまでのところ好調であり、金利コストも歴史的に見て低水準であることから、企業の返済能力を以前より高めに見積もることが妥当であると考えられなくもありません。
思い出されるリーマンショック時のAAA格大量格下げ
ただここで思い出されるのが、前回の金融危機時の格下げラッシュです。当時はBBB格ではなく、CDOやCLOなどといった債務担保証におけるAAA格の債券の格下げが、大量に、また大幅に発生しました。中でも、ABS-CDO という種類の商品においては、大手格付け機関のムーディーズ社が2007年にAaaと格付けしたものの93%が、2008年末までにジャンク債クラスに格下げとなりました。サブプライム問題が予想以上の悪化を見せた結果だとしても、明らかにリスクを著しく過小評価していたといわざるを得ません。今後、貿易問題にせよ、米国の利上げペースの加速にせよ、企業の調達環境が想定外に厳しいものとなった場合、大量の格下げがでる可能性は一つのリスクシナリオとして意識しておく必要はありそうです。大量のジャンク債が生み出されれば、ジャンク市場の投資家層が急に増えない限り、多くの信用力が低い企業は市場から弾き飛ばされて破綻することも予想されるのです。
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