ぶさいく猫



以前、マーケットにいる猫として、キャットボンドについて書いたことがあります。
ただし、キャットボンドのキャットとは実は猫のことではなく、「大災害」を意味する"Catastrophe"の略です。またボンドは債券のことを言い、キャットボンドは債券の1種となります。そしてそのキャットボンドに、先月新たに新種が生み出されました。
改めて、キャットボンドとは?

主に保険会社などが発行する債券で、投資家はそれを購入することで、その保険会社に代わって自然災害のリスクを一部引き受けることになります。地震や台風などの予め定められた条件に合致する大災害が発生した場合、保険会社が支払うべき保険金の一定部分を、投資元本を放棄することによって投資家が負担するのです。しかしその代わりに、大災害が発生しなかった場合には、同様の年限の他の普通社債よりも高い金利を受け取ることができます。

ここ数年、このキャットボンドの人気が大きく高まっていました。高い利回りが魅力的であることに加え、ポートフォリオ内のリスク分散効果を高めるとされたためです。大災害の発生リスクというのは、株や金利などといったいわゆる伝統的資産が持つリスクとは全く性質が異なります。キャットボンドを含む保険関連商品は機関投資家や富裕層を惹きつけて、その発行規模は2009年の180億ドルから、2018年末には930億ドルまで拡大しました(Willis Towers Watson社調べ)。

但し、運用成績については、2017年以降はかなり惨憺たるものとなっているようです。それまでは比較的堅調なリターンをあげていましたが、2017年と2018年にはカリフォルニアを襲ったハリケーンやメキシコでの地震などの大災害が相次いだだめです。今年に入って発行済みのキャットボンドの価格は回復傾向にあるようですが、今年全体の成績はもちろん今後の災害次第となります。


新種のキャットボンド

そんなキャットボンド市場のリターンが低下している中にも関わらず、新たな種類のキャットが先月生み出されました。
テロのリスクをカバーするキャットボンドです。

英国の公的な保険会社であるPool Reinsurance社は、5.9%の利率で、£7500万(約110億円)の3年債を発行しました。単年度に、英国内で起こったテロに起因する保険金が一定額を超えた場合、投資家が損失を被ることとなる債券です。ここでのテロには、核や化学兵器、生物兵器、放射性物質、サイバー攻撃などが広範に含まれます。そして、その販売は順調に完了したと同社は発表しました。どういったタイプの投資家が購入したのかまでは発表文では分かりませんが、高い運用利回りを強く求める投資家か、そうでなければとても愛国心の強い投資家だったように感じられます。というのも、テロのリスク量の計測にあたってはまだ市場でも経験値が高くなく、今回の債券のリスクモデルもPool Re社自身のものであったためです。とはいえ、世界のマーケットはまた心地よい低金利の世界に戻りかけており、高利回り商品を求める投資家の需要を背景に、この新種のテロキャットボンドにも仲間入りするものが増えるだろうと市場では見られています。



日本国内でも、キャットボンドで運用する投資信託が販売されており、購入単位は大きいものの、一般的な個人でも購入することができます。ただし、そのリスクの把握は個人では非常に難しいことは言うまでもありません。当該投資信託の純資産額が伸び悩んでいる場合は、繰り上げ償還のリスクもあることも頭に置いておきたいところです。

猫は本当に可愛い生き物ですが、マーケットのキャットはそれほど可愛くない面も持っている可能性はあるので慎重に付き合うことが重要だと思います。

Sponsored Links