金の豚


金価格が急騰しています。
85日には、ドル建ての金価格は史上初めて2000ドルを超えました。
価格高騰の理由は幾つか考えられますが、一番の根っこには先行きのインフレ懸念があるのかもしれません。


2019年半ばころから金価格の上昇が目立つ

どの国のリスクからも基本的には隔離されている金は、一般に「安全資産」と呼ばれます。
一方で、金利も生まず、保管リスクなどもあるため、運用資産としては金を評価しない向きもあります。
いずれにせよ、金の価格は需給によって決定され、ある意味、その時々の時代のムードを反映してきたと言えます。

 

金価格(これ以降、金価格とは米ドル建てのスポット価格を指します)が前回1800ドルを超える高値を付けたのは、2011年の夏ごろでした。
当時は、2008年のリーマンショックから2010年以降の欧州債務危機につながっていった時期です。
世界経済がひどい苦境に喘いでおり、そのため先進国の金利も非常に低く抑えられていました。

その後、世界経済が緩やかに回復するにつれて金の価格は下落から横這いに転じ、2019年半ばころから再び急ピッチに上昇してきています。


最近の金価格上昇の理由

米中対立の激化や中東情勢の不安的化を受けて、地政学的リスクを嫌う資金が金に向かっていることが一つ考えられます。
まさに、安全資産としての金の性質が求められているわけです。

また興味深いことに、2018年及び2019年には、世界の中央銀行が1971年の金ドル交換停止以来最高のペースで金を購入していました。特に、ロシアやトルコ、中国などといった国の購入が目立ち、背景には、米国などとの衝突があると見られています。外貨準備高の中の米ドルを金に置き換えていたのです。
民間の投資家においても、米ドル以外の資産を保有しておきたいという理由での金購入も少なくないと思われます。

 

また、主要先進国での金利がほぼゼロになったことも大きな理由だと考えられます。
もともと金利を生まないというのが金投資の最大のデメリットでしたが、預金も金利が付かないとなれば、金を選ぶ人が増えても不思議ではありません。金にしておけば、少なくとも一つの分散投資になり、またタイミング次第では値上がり益を期待することもできます。

 

しかし、金という資産に多くの投資家が向かう恐らく最大の理由は、インフレ懸念かもしれません。

 


コロナでインフレか、デフレか?

コロナ禍で全世界が未曽有の景気悪化に苦しむ中、多くの国で物価も低下傾向にあります。

人々は家にこもり、収入は途絶え、消費を手控えています。
そうした中では、モノは作っても売れず、価格には下落圧力が強まります。
つまり、いま懸念されているのは、インフレどころか、デフレのはずです。

 

しかし一方で、世界中の政府が景気対策として大量の紙幣をばらまいているという事実があります。IMFによると、6月時点で世界が新型コロナ対策として売った経済政策は11兆米ドル(約116兆円)です。

経済の教科書的には、お金の流通量が増えるとインフレになります。世の中でお金が増えすぎると、その価値は下がってしまい、同じ金額であっても以前より少ない量や質の商品としか交換できなくなっていくという考え方です。

 

世界的な紙幣のバラマキの副作用については、異論も多く聞かれます。

特に、反証としてよく引き合いに出されるのが日本です。日本は長らく財政赤字を膨らませ続けてきたものの、デフレの状態が長く続いてきたためです。


それでもくすぶるインフレ懸念

しかし、コロナの一定の収束後、或いは中長期的なシナリオとして、インフレ懸念は根強くくすぶっているようです。

 

市場のインフレ期待を表すものとして、物価連動国債というものがあります。
この物価連動国債と、一般の国債との利回りの差(ブレークイーブンという)が、市場が予想する将来のインフレ率を示します。
市場規模の一番大きい米国の10年物価連動国債を見ると、コロナのパンデミックがほぼ明らかになった2月半ば以降にブレークイーブンは急速に下げるものの、3月半ばには底を打ち、今は急落前とほぼ同水準にまでまた急ピッチに戻しています(85日現在で、1.61 )。
金融市場では、インフレとはまだまだ言わないものの、物価の戻り基調を見込んでいると見られます。

 

また、銀価格の上昇も注目されます。
執筆時点で7年ぶりの高値を付けている銀価格は、足元では金よりも高い上昇率となっています。
銀は工業用途の多さから景気の動向に敏感に反応する資産です。
そうした銀価格の上昇は、近い将来の好景気か物価上昇への期待を反映していると見るのが自然です。

 

 


短期的な見通しとしては、デフレ方向を予想する向きが現在は大勢です。

しかし中長期的にはインフレのリスクを感じている人が少なくないことを、金価格やその他の市場の動きは示唆しているものと思われます。

「景気は気から」というように、インフレも多くの人がそれを懸念するようになれば、債券や株式市場への影響にもより注意が必要となるかもしれません。


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