タンス預金

ここ数年、タンス預金が急増しているようです。

背景には、20151月に行われた相続増税のほか、20161月のマイナンバー導入や同時期からの日銀のマイナス金利政策の決定があると見られます。

マイナンバーにより政府に自分の資産を補足されると、財産税のようなものが将来始まったときに逃げられない・・・
だから現金は自宅に隠しておきたい・・・
どうせ、銀行に預けていたって金利はつかないし・・・といったところでしょうか。

確かにその考えに対しては、タンス預金は有効な手立ての一つです。

但し、一つ大きなリスクが有ります。

それは、政府が新札を発行したり、或いはその紙幣自体を廃止してしまうというリスクです。


そういう事態が起こった場合、現在の紙幣は新札や他の額面の紙幣に交換しない限り、まさに「紙くず」となってしまう可能性があります。

実際にこのリスクが顕在化する可能性はまだ高くないかもしれませんが、これに関して示唆に富む幾つかの事柄を以下に紹介したいと思います。

 

1. インドで高額紙幣の廃止

2016118日の夜のテレビ演説で、モディ首相は突然、翌日から1000ルピー(約1800円)紙幣と500ルピー紙幣を廃止すると宣言しました。
日本におきかえると、五千円札と一万円札が一夜にして使用停止になるようなものです。
新紙幣との交換は、一日あたり
4000ルピーまでといった制限等が設けられたほか(その後、さらに制限は引き下げ)、新紙幣の印刷にも遅れが出たことなどもあり、インドは急激な現金不足に襲われました。
当時のインドでは決済の
9割程度が現金で行われていたため、インド経済は当然ながら大きなダメージを受けました。
しかし、モディ首相の支持率は下がることなく、非常に高い水準を今も維持しています。
高額紙幣廃止の目的は、巨大な地下経済に流れている不正資金の根絶であり、これを庶民が評価したためだと思われます。
緩やかに減速を続けていた
GDP成長率も、20177-9月期は前年同期比6.3%増(前期:同5.7%増)となり、力強さを徐々に取り戻してきたようです。
不正資金の根絶に対する効果ははっきりしないと言われていますが、インドでの突然の高額紙幣廃止はとりあえず完遂されました。

 

2 ユーロ圏でも高額紙幣の廃止

ユーロ圏でも、500ユーロ(約6万1千円)紙幣の廃止が、20165月に決定されました。
但しこちらは、インドに比べるとかなり穏やかな手順を踏んで行われます。
新たな発行を
2018年末で停止することとなりますが、既に発行されている紙幣はその後も無期限で使用できます。
また、
100ユーロ紙幣と200ユーロ紙幣についてはデザインを変更することも合わせて決定されました。
ユーロ圏での措置も、マネーロンダリングや犯罪に高額紙幣が多く使われることに対応したものです。そして実は、カナダやスウェーデン、シンガポールといった国も同様に高額紙幣の廃止を決定しています。
因みに、スイスには
1000スイスフラン(約112千円)紙幣という非常に高額なものもありますが、こちらは今のところ廃止する話は聞こえてきていません。

 

3 著名な学者も1万円札の廃止を提言

 マクロ経済学の第一人者である米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、米国や欧州などに対して高額紙幣の廃止を求めていますが、中でも日本が1万円札を廃止する必要性が高いと主張しています。
脱税やマネーロンダリングなどの犯罪を減らすことができるほか、次の金融危機が起こった時の金融政策の余地を広げる効果が見込めるためだとしています。
現在は個人の預金金利にはマイナス金利は適用されていませんが、今後また更なる金融緩和が必要となった場合には、マイナス金利をさらに深堀りせざるをえ無い場合も出てきます。
その際、マイナス金利を嫌って預金を引き出そうとしても、高額紙幣が無ければ保管にも不便であるため、引き出したお金は消費に向かって景気向上に役立つだろうというものです。
この意見については異論も様々あるようですが、注目されていることも事実です。

 

4 世界の多くの国で進むデジタル通貨の研究

ビットコインなどの仮想通貨が非常に注目されていますが、ブロックチェーンの技術を使って国家が法定デジタル通貨を発行する日も遠くないかもしれません。
ウルグアイが昨年
11月にデジタル通貨の運用実験を開始したほか、スウェーデンも今年年末までにデジタル通貨を発行するかどうか決定するとしています。
オランダやカナダ、英国、ロシア、中国なども研究を始めており、もはや研究していない国を探す方が難しいと思える状況です。
日本でも、みずほファイナンシャルやゆうちょ銀行、その他多くの金融機関が参加して、
Jコインなる仮想通貨を研究しています。
これは法定デジタル円という位置づけのものではありませんが、どんな形であれデジタル通貨が主流となる時代には、タンス預金はそのままではほぼ使えなくなると思われます。

因みに、前述のインドでは高額紙幣廃止以降、爆発的に電子決済が増えました。電子決済の普及も政府の目的だったと考えられています。

 

こうして見ると、日本での一万円札廃止は決してあり得ないと言い切れ無くなったのではないでしょうか?

一万円札



最後に、欧州には現金の利用金額に上限を設けている国が少なくないことも付け加えておきたいと思います。

日本ではまだATMでの現金引き出しに制限がある程度ですが、もし日本でも同様な制限が設けられれば、タンス預金の使い勝手も一気に悪くなるでしょう。

 


紙幣廃止のリスクについては、推測や思惑の域を出るものではありません。

煽るつもりではなく、タンス預金にも死角があることを今回考えてみました。

 

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