インドの長期金利が急ピッチで上昇を続けています。
昨年8月ごろには6.5%程度だった10年国債の利回りは、先週末には7.67%程度にまで上昇しました。本日現在も7.63%と高止まりしています。
背景には、中央銀行の利上げ懸念と財政赤字の拡大があります。
しかし足元の上昇の速さには、主要投資家であるインドの国内銀行の、不買運動に似た姿勢も影響していると見られます。
インドでの金利上昇の背景
インドでは、財政責任・予算管理法によって、財政赤字を名目GDP比3%以内に収めることが義務付けられています。ここ数年、実績は3%を大きく上回っていましたが、モディ政権は2017年度(2017年4月―3018年3月)の予算で、その年度の赤字を3.2%、2018年度は3.0%とする目標を立てました。しかし、今年2月に発表した2018年度の予算の中では、2017年度の実績見込みを3.5%、2018年の目標を3.3%としたのです。そして同時に発表した中期財政計画では、3%の達成時期は2020年度に2年先送りされました。財政赤字が上振れた要因は、主に年金経費と債務の利払い増加です。これらは2018年度も同様に歳出を押し上げると見られるほか、2019年の選挙を前に、歳出を絞りにくい背景もあります。
さらに、原油価格の上昇と景気回復によって、物価上昇率が上昇しています。1月の消費者物価指数は前年同月比で5.07%となり、2017年12月よりは若干低下したものの、2か月連続で5%を超えました。これを受けて、2017年8月以来政策金利を据え置いているインド準備銀行(中央銀行)が近く利上げに転じるのではないかとの見方が強まっています。
こうした財政健全化の先送りと利上げ懸念を受け、インドの債券市場は先月まで7か月連続の下落を演じたのです(金利は上昇)。
同様に財政問題を抱える日本の場合
「財政健全化の先送り」という言葉は、日本でも残念ながらとても馴染み深いものです。安倍政権は昨年末、基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2020年までに黒字化するという目標を「先送り」しました。しかし日本では長期金利の急騰という事態は起こっていません。一つには当然、インドと違って日本は利上げには程遠いという状況があります。まだ異次元緩和の出口を議論する(すべき)段階で、利上げは恐らくずっとその先です。しかし、それよりも懸念すべき理由として、日本では国債のほとんどを日本銀行が買っており、「債券自警団」が機能しないという状況があります。「債券自警団」とは、インフレや財政赤字につながりかねない国の政策に対して、債券の売りで抗議する機関投資家のことを指します。債券が売られる(金利は上昇する)と、国債の利払い負担も増えるため、政府に財政赤字を削減させる圧力となります。しかし日本には、そうした売り圧力がかけられる機関投資家はもはやほとんどいないのです。今は、国債発行残高の約41%を日銀が保有しており、銀行や生保(共に約20%)よりもはるかに多くなっています。銀行も生保も、規制や事業ニーズに対応して一定の国債を保有する必要があります。マイナス金利導入もあって民間の機関投資家は既に限界近くまで国債の保有を減らしていると見られ、自警団としての存在感はありません。そして言うまでもなく、日銀は自警団とは真逆の動きをしています。
インドにとっての解決策
インドルピー建てのインド国債の主要な投資家は、同国の国立銀行です。それら銀行は、運用資産の8割程度をインド国債が占めるまでになっており、これ以上買う余力はありません。むしろ、保有する国債の含み損が膨らむ一方で、今年に入ってからはネットで売り手に回っているようです。インドの国立銀行は、「自警」しているとも言えます。他に目立った買い手もない中で、債券相場の下落が激しさを増していると見られます。
では、インドの政府や中央銀行に打つ手はないのでしょうか?実はルピー建てインド国債には、海外の機関投資家に対しては投資枠といった規制があります。この投資枠は段階的に緩められてきてはいるものの、まだ海外機関投資家の保有比率は市場全体の5%にとどめられているのです。2022年には人口で中国を抜き、2050年にはGDPでアメリカを抜いて中国に次ぐ2位になるともされるインド。海外投資家のインドに対する期待は大きく、投資枠が広げられれば、一層多くの新規資金がインドに流入することが期待できます。国内投資家の需要不足を補って、債券市場の安定に寄与する可能性が高いのです。
翻って、日本
平成29年9月末現在の日本銀行の発表によると、海外投資家の日本国債の保有比率は6.1%となっています。日本政府は懸命に海外投資家を国内債券市場に呼び込もうとしていますが、現状はこの水準です。今後何らかのきっかけで日本の金利が急上昇した際、日本はどうするのでしょうか。また日銀に頼るというだけでは、将来により大きな問題を残すだけでしょう。インドのように高い将来性をどうにかして発揮するのか、或いは今こそ真剣に財政健全化に取り組むのか、インドで起こっている金利上昇を他人ごととして見ている場合ではないと考えます。