空前の猫ブームに若干押され気味に見える犬ですが、ペットとしての人気はもちろん犬だって負けていません。インスタグラムで投稿につけられるハッシュタグでも、「CAT」よりも「DOG」の方が、また「CATSTAGRAM」よりも、「DOGSTAGRAM」のほうが多いのです。そして当然、今年は戌年! 前回はマーケット(金融市場)の「ねこ」を探しましたが、今回は「いぬ=DOG」を見てみたいと思います。
■株の「いぬ」といえば?
「ダウの犬戦略」というものをご存知でしょうか?米国ではよく知られている、株式投資手法の一つです。その手法というのは、毎年12月31日にNYダウ構成30銘柄を配当利回りの高い順に並べ、その上位10銘柄を均等に買い付けます。そして、翌年12月31日にまたその時点での配当利回り順に並べ替え、その上位10銘柄と入れ替えます。これを毎年繰り返していくというものです。
これは「負け犬戦略」と呼ばれることもあります。なぜ「負け犬」なのかと言えば、配当利回りが高い株は、値下がりしている株である場合も多いためです。配当利回りは、「一株当たり年間配当金÷株価」で計算されるため、配当金が前年と変わらなくても、株価が下がっていると配当利回りは上昇するのです。しかしこの戦略の投資対象は、米国を代表する企業で構成されるダウ指数に含まれる銘柄です。このため、値下がりしたとしても深刻な経営難には陥らないという前提に立ち、むしろ割安な銘柄を買う戦略だともいえます。高い配当利回りを得ながら、割安株の株価上昇も狙っていく手法なのです。
そして、今年の10銘柄は以下の通りです。
1 ベライゾン・コミュニケーションズ (電気通信)
2 アイビーエム (情報技術)
3 ファイザー (ヘルスケア)
4 エクソン・モービル (エネルギー)
5 シェブロン (エネルギー)
6 メルク (ヘルスケア)
7 コカ・コーラ (生活必需品)
8 シスコ・システムズ (情報技術)
9 プロクターアンドギャンブル (生活必需品)
10 ゼネラルエレクトリック (資本財)
ただ、この戦略が常に奏功するわけではありません。昨年この戦略の対象となった10銘柄は、ダウ平均指数のパフォーマンスを下回りました。そして残念ながら、今年の10匹のいぬ達も、ダウ平均よりもスタートダッシュで後れを取っています。長期的にみればこの戦略の勝率は比較的高いので、後半の盛り返しに期待したいところです。
■債券の「いぬ」といえば?
「ブルドッグ債」という言葉をきいたことがあるでしょうか? これは、英国外の発行体(国や国際機関、民間企業など)が、英国の投資家向けに、英国の国内市場で発行する、英ポンド建ての債券につけられたニックネームです。
実は、国外の発行体による国内投資家向けのこうした債券は、その国によってなかなか面白いニックネームが付けられています。日本の国内投資家向けに海外の発行体が円建てで発行する債券は、「サムライ債」と呼ばれます。この名前は聞いたことがある方も多いかもしれません。同様に、米国の投資家向けに米国外の発行体が米ドル建てで発行する債券は、「ヤンキー債」です。中国投資家向けに中国外の発行体が人民元建てで出すものなら「パンダ債」ですし、これが韓国投資家向けのウォン建てとなると「キムチ債」であり、オーストラリア投資家向けの豪ドル建てなら「カンガルー債」と呼ばれます。これらを見て分かる通り、ニックネームはそれぞれの国について外国人が思い浮かぶイメージから名づけられています。ブルドッグはもともと英国で生まれた犬種なのです。
英国では昨年11月に、10年ぶりとなる利上げが行われました。利上げは基本的には債券市場にとって悪材料となります。またBREXIT(ブリグジット)によって、現在の英国市場は非常に不透明感に満ちています。ブルドッグ債の発行が増えやすい環境にあるとは言えず、当面ブルドッグ債は希少犬種となる可能性が高そうです。ちなみに希少動物とされるパンダのほうは、昨年12月の日中当局の合意によって日本企業もパンダ債を発行することが可能となり、早速三菱UFJ銀行やみずほ銀行が発行を行っています。今後も日本企業によるパンダ債発行は増えていくと見られています。
■通貨の「いぬ」といえば?
WAON(イオン[8267]が発行する電子マネー)の犬も可愛いのですが、ほぼ日本国内でしか知られていないため、グローバルマーケットの代表とするには荷が重いかもしれません。
一方、仮想通貨には「Dogecoin(ドージコイン)」というものがあります。「Doge」とは「Dog」を指すネットスラングで、マスコットとして日本の柴犬が使われています。もともとはビットコインを揶揄する目的でふざけて作られた仮想通貨ですが、昨年末頃から大きく値上がりし、一部で人気も出ているようです。
しかし他の仮想通貨同様、このドージコインも今年に入ってからの値動きは非常に激しく、取引量にも日によって大きなばらつきがあります。世界に利用者がいるといってもその数は限定的であり、まだ投機対象としての域を出ていないと思われます。仮想通貨に対しては世界的に規制強化の方向にあり、今後は淘汰されていく通貨も出てくるでしょう。ドージコインが通貨代表の「いぬ」になれるかどうかは、まだまだ見極めが必要だと思われます。
こうしてみると、マーケットの「いぬ」にとっての2018年前半は、残念ながら出足がとても良いとは言えなさそうです。後半の追い上げダッシュに期待したいところです。