NISAやIDECOなどといった投資を促す国の施策もあって、若年層の積立投資などが徐々に広がりを見せているようです。とはいえ、株などの有価証券を多く保有しているのは、まだ60歳代や70歳代といった年代が中心です。そして、年齢を重ねるとともに認知症の発症リスクが高まるという、残念な事実があります。このままの状況が続けば、今後株の保有者が認知症患者であるというケースも増えてくるでしょう。
「自分の親が急に認知症になってしまった。」
「そういえば、株取引をしているような話を聞いたことがある。」
そんな時、子供としてはどう対処すればいいのでしょうか?
2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症患者に
65歳以上の高齢者が人口に占める比率を、「高齢化率」といいます。1947~49年に生まれた「団塊の世代」が2012年に65歳に到達し始めて以降、高齢化率は急速に上昇しており、2017年時点では27%に達しました。4人に1人以上が65歳となる計算です。そして高齢者の増加に伴い、認知症患者も増加を続けています。厚生労働省によると、団塊世代が全員65歳以上となる2025年には、認知症患者は700万人前後に達するとみられています。つまり、65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症患者になるという見通しなのです。現在、有価証券を多く保有しているのは60歳代や70歳代の高齢者ですが、有価証券を保有したまま認知症を発症するケースも今後急増することが見込まれます。
認知症を発症すると、金融機関は取引凍結
顧客が死亡すると、銀行や証券会社などの金融機関は取引を凍結することはご存知の方も多いと思います。実は顧客が認知症となった場合にも、基本的に取引は凍結されます。認知症の程度や金融機関の別、またはその担当者によって、対応内容に違いがでるケースもあり得ますが、基本的に子供であるというだけでは親の代わりに取引をすることはできません。認知症を発症した親の保有する株の管理をするためには、成年後見人となる必要があるのです。
親族でも成年後見人になれるとは限らない
成年後見制度には「任意後見制度」と「法定後見制度」がありますが、認知症が進んでしまってからは、「任意後見制度」を選ぶことはできません。後見される本人が任意後見契約を十分理解できないと考えられるためです。「法定後見制度」では、親族や市町村長等が家庭裁判所に申請を行い、家裁が後見人を選定することになります。申請者は成年後見人の候補を述べることはできますが、親族を候補として希望しても、最近は親族以外が選ばれるケースが非常に増えています。裁判所が公表する平成28年の内訳をみると、親族が後見人に選ばれたケースは全体の28.1%にとどまり、それ以外は弁護士や司法書士といった第3者が選ばれているのです。そして、決定について親族が異議申し立てを行えるような制度はありません。
本人の認知能力の度合いによって、成年後見人ではなく、保佐人や補助人がおかれるケースもあります。しかし、本人の同意なしに株取引が行えるのは、認知能力が最も低い場合に置かれる成年後見人のみです。成年後見人は本人の財産を適切に維持・管理することが求められているので、株などの元本割れする商品を新たに購入することは認められません。既に保有している株については、これを保持するのか、或いは売却するのかという選択になりますが、それは成年後見人の考えに任されてしまうのです。子供としては、親に配当をもらい続けてほしいかもしれないし、相場観のある人なら売ってほしいタイミングのイメージもあるかもしれません。しかし、子供であってもそうした考えを実際の行動につなげることはできません。また、成年後見人の制度を利用するには2か月程度はかかるので、株価が下がっているときには余計にやきもきしそうです。
親が元気なうちにしておくべきこと
残念ながら、親が認知症になってからでは、子供がその保有する株について何もできないケースが多いということなのです。やはり親が元気なうちから、せめて取引のある証券会社だけでも聞いておくことが必要かと思われます。ネット証券を利用している場合には残高報告書なども郵送されない場合があり、親族が全く気付かないままになってしまうケースも想定されます。一方、証券会社によっては、成年後見人でなくても、親族が取引代理人として認められる場合もあります。親が急に認知症を発症してもすぐ対応できるように、事前に代理人手続きをしておくことは有効でしょう。ただこちらも親の同意が前提となり、面談や電話での意思確認などが行われます。やはり親が認知症になってからでは利用できないため、お金や財産の話は聞きづらいなどと遠慮せず、元気なうちから対応を相談しておくことが重要だと思われます。