逆さ景色


米国市場で、
OIS金利とLIBORの金利差がリーマンショック以降最大となり注目を集めています。

OISOvernight Index Swap)は翌日物金利スワップと訳され、スワップ取引の1種です。政策金利の見通しを反映するものとして注目される指標でもあります。一方でLIBORとは、ロンドン市場で銀行同士が資金取引を行う際の平均金利のことを言います。翌日物から12か月物まで7つの期間の金利が毎日集計されていますが、こちらには政策金利の見通しに加え、市場の流動性リスクや銀行の信用リスクも反映されると考えられています。より多くのリスクを織り込むLIBORの方がOISより高いのは当然なのですが、その差(スプレッド)は0.2%以下であるのが概ね通常です。しかし昨年末からこのスプレッドが急速に拡大し、323日には0.58%となったのです。


リーマンショック時以外にこの差が大きく拡大したのは、
2016年にマネーマーケットファンド(MMF)改革により短期金融市場で需給構造が大きく変わったときや、2011年から2012年にかけて欧州の債務危機が深刻化した時くらいです。今回の動きの背景にはどういった理由があると見られるのでしょうか。

 

今のところ原因を完全に特定することはできませんが、いくつかの要因がマーケットでは取りざたされています。

 

① 2月初旬に議会で債務上限が引き上げられた後に財務省短期証券(T-Bill)が大量に発行されたため、短期金利が全般的に上昇したというもの。

 

② 1月に決定したレパトリ減税を受けて、企業が海外に保有する資金を現金化する動きがあるとみられます。これまでは銀行が発行する短期のコマーシャルペーパーや譲渡性預金(CD)などで運用していたような資金を企業が現金化しているため、銀行にとってはそれ以外の方法での資金調達ニーズ、すなわち銀行間借入へのニーズが高まっているというもの。

 

③ 1月の税制改革に含まれた「税源浸食・租税回避防止税(BEAT)」条項により、日本や欧州の大手銀行の米国内子会社が本社から資金を借り入れた際、その利子に課税がされることになったようです。このため、米国内子会社は自身で米ドルの資金調達をするようになったため、銀行間での資金需要が強まったというもの。



恐らくどれもが正しく、そしてタイミングが重なった結果、影響がより大きく出たものと考えられます。

 

今回のスプレッド拡大は金融システムへの不安から生じたものでないため、特に問題ないとの見方も多いようです。しかし、米連邦準備理事会(FRB)が慎重に0.25%の利上げを今月決定した一方、市中の短期金利はそれに加えて更に0.5%上昇しているのです。ドル建てLIBORは、世界全体で350兆ドルに上る金融取引―デリバティブ(金融派生商品)やシンジケートローン、企業向け融資、商用不動産融資などーの基準金利となっているとされます。長期化すれば、当然景気への影響も配慮しないといけなくなるでしょう。

スプレッド拡大が先に挙げた
3つの要因で説明できるとするなら、①の要因は来月には減退しそうです。4月は税収が入ってくるため、短期証券の発行が減ることが見込まれるためです。一方、②と③の要因は長引く可能性があります。


実はLIBORは、2021年末で基準金利としての役割を終える見通しとなっています。LIBORは実際の取引に基づいたデータではなく、銀行の申告に基づいて集計されたものです。銀行が容易に操作できる仕組みともいえ、実際2008年の金融危機時には不正操作が見つかり、複数の大手銀行に巨額の罰金が科されました。この反省を踏まえ、各国がLIBORの代替金利について議論を重ねてきましたが、米国については43日から新たにSOFR(Secured Overnight Financing Rate)の発表が開始されることになっています。ただ新たな指標への移行は非常に複雑で、かつ時間がかかることになると思われます。まだまだ多くの金融取引がLIBORに依存する状況が続くため、来月以降もFRBの政策だけでなく、OIS-LIBORスプレッドの動きが非常に注目されます。

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