ドルと豚


2013
年頃から、「バンクローン」を運用対象とする投資信託などを見かけることが増えました。

前回は「ハイイールド債」について見ましたが、今回はこの「バンクローン」の特徴を見てみたいと思います。

 

まず「バンクローン」とは、企業が銀行から受ける融資のことです。このバンクローンは銀行が第3者に譲渡することができ、米国ではバンクローンの流通市場も発達しています。融資であるため、借入れをしている企業がつぶれない限り、債券のように満期までの利息を投資家は受け取ることができます。そして、バンクローン投信が運用の対象としているものは、信用力の弱い企業向けのローンとなっています。このため借入金利が高く設定されており、バンクローン投信も高めのリターンが期待できるとされているのです。



運用対象が信用力の弱い企業であるというと、「ハイイールド債」と似ていると思われるかもしれません。確かに、信用力が低いという点は同じですし、債券と融資のキャッシュフローも似ています。しかし以下のような違いもあります。

 

■ バンクローンは変動金利

固定利付債の場合、金利の上昇局面では価格は通常下落します。ハイイールド債は基本的に固定利付債です。一方、変動金利であるバンクローンは、金利上昇局面では受け取る金利が増えることになります。2013年以降にバンクローン投信が増えたのは、販売会社がこの特徴を魅力的と考えたためだと思われます。2013年というと、当時のバーナンキFRB議長が量的緩和の縮小を決定し、それに続く利上げが大きく意識された時期でした。

 

■ 一般的に、バンクローンの借手企業の方が信用力が低い。

自力で債券を発行できるハイイールド債の発行体の方が、バンクローンの借手より信用力が高い場合が多いようです。借手が返済不能になる(デフォルト)リスクはバンクローンの方が高いと言えますが、デフォルトとなった場合でも、バンクローンには担保が付されていることが一般的であり、弁済順位も債券や株より高くなっています。

 

 

では、バンクローンは投資対象として本当に魅力的なのでしょうか?

ハイイールド債の時にも書きましたが、それは今後の米国経済をどのように見るかによって答えが変わります。

米国経済が今後も底堅く推移し、インフレ率の上昇も引き続き緩やかで、ひいては利上げペースも大きくは速まらないと見るなら、バンクローンは魅力的です。一方、米国経済が今後失速すると見るなら、信用力の弱い企業の中には経営に行き詰まるところが増えると考えられます。また逆に景気が強くなりすぎても、それによって利上げのペースが早まれば、利払い負担に耐えかねて行き詰まる企業が出てくる恐れもあります。実は変動金利の基準となる金利は政策金利ではなく、現状はLIBORと呼ばれる銀行間貸出金利です。そしてこのLIBORが昨年末以来、政策金利を上回る速度で上昇しているのです。こうした動きにも注意を払う必要があるでしょう。

 

また、為替リスクがあることにも注意が必要です。バンクローンはドル建てのものがほとんどであるため、為替ヘッジのついていないタイプの投信であれば、購入時より円高になると投信の価格には下落圧力がかかります。もちろん、中長期的にドル高/円安を予想していたり、資産内の通貨分散効果を狙っている方には、実質ドル建てであることは魅力的でしょう。

一方、現在は日米の短期金利の差が広がっているため、為替のヘッジコストが上昇しています。為替ヘッジのついているタイプの投信では、米国金利が上がるほどヘッジコストも上昇するため、変動金利による恩恵は受けられないと考えられます。

 

 

このように、バンクローンが魅力的であるかどうかはそれぞれの景況感で判断するしかありません。ただ個人的には、「コベナント・ライト」と呼ばれるタイプのローンが増えていることには多少の懸念を感じています。「コベナント・ライト」とは、借手に対する財務制限条項が過去に一般的だったものよりも緩く設定され、貸し手にとってはリスクが高いといえるローンです。こういったローンが今では全体の7割と、過去最高水準にまで増えてきているのです。過剰流動性で借手優位となっているための事象ですが、欧米では金融緩和縮小へと舵を切っている中、注意が必要な点かと思われます。

 


色々書きましたが、ハイイールド債の時にも指摘した通り、リーマンショック直前の高値圏でバンクローンファンドを購入してしまったときでも、そのまま2、3年以上持ち続けた場合にはトータルリターンはプラスになりました。長く運用できる資金なら、バンクローンファンドもポートフォリオの一環として検討できるものといえるでしょう。

 



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