土管

ここ数年、流通や出版など様々な業界で、中間業者を省く、いわゆる「中抜き」が多く見られるようになってきています。その流れは今のところ反転する兆しがなく、多くの卸売会社や出版取次会社を苦境に追いやっています。金融業界は現在フィンテックの進攻で大きな構造転換を迫られつつありますが、ここでも中抜きの波は押し寄せつつあるのでしょうか?

損害保険業界で進む中抜き

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8日付の日本経済新聞に、「オンデマンド型」の動産保険が日本に登場するという記事が出ていました。デジタル機器を対象として、利用したい個人がスマホから直接保険を申し込むというものだそうです。保険は時間単位でかけられるといい、記事では、2時間山歩きをする間だけスマホやデジタルカメラに保険をかけるといった利用例を紹介していました。保険料は対象によって異なりますが、一時間当たり数十円となりそうだとのこと。

このオンデマンド型保険は、利用者にとっては時間当たりで保険をかけられるという新規性が注目される一方、業界にとっては構造を一変しかねない要素を持っているとされます。保険業界の「中抜き」を促しかねないためです。この保険では、利用者は申し込みから、事故報告、保険金請求まで、簡単なスマホ操作で済ますことができるようになります。つまり、販売業務などで顧客との接点役にあった代理店が要らなくなる可能性が出てくるのです。記事ではこの保険の対象は当初デジタル製品になるとしていましたが、当然対象は今後増えていくものと思われます。

証券業界での中抜き

米国証券市場では今月3日に、かなり目新しい「中抜き」が見られました。音楽配信サービス世界大手の「スポティファイ」を運営するスポティファイ・テクノロジー社が、ニューヨーク証券取引所(NYSE)に「直接上場(ダイレクト・リスティング)」したのです。

この直接上場というのは非常に稀な手法で、同社ほどの規模の会社としては市場初の試みでした。通常の新規株式公開(IPO)では、主幹事と呼ばれる証券会社を、上場しようとする会社がまず指名します。この主幹事が、上場前に投資家への説明会(いわゆる「ロードショー」)をアレンジし、様々な上場作業を手伝い、取引開始後は株を買い支えたりします。これらサービスに対して支払われる報酬は、証券会社にとって大きな収益源の一つとなっています。しかし今回スポティファは主幹事を指名せず、ロードショーも行わず、新株の発行も行わず、既存の株式のみをNYSEに上場させたのです。その結果はというと、終値は初値を下回ったものの、事前に取引所が示した参照価格は上回り、取引の目立った混乱も見られず、直接上場は成功と評価されました。そしてスポティファイは、通常のIPOを選ばなかったことにより、主幹事に支払う手数料など費用を大幅に削減できました。


スポティファイのように直接上場できる会社は多くないとも思われます。スポティファイは今回新たな新規調達は行わなかったためロードショーも必要なく、またその高い知名度もスムーズな上場に役立ちました。多くの企業はこうした条件に当てはまらないと考えられます。しかしそれでも今回中抜きされた証券会社は、今後こうした手法が増えないかどうか戦々恐々としているでしょう。



銀行業界での究極の中抜き

 

金融業界にとって、今後最大の中抜きを引き起こしかねないのは、中央銀行によるデジタル通貨の発行かもしれません。現在既に多くの国が独自のデジタル通貨の発行について研究を行っています。カナダのCADコインやシンガポールのデジタル・シンガポール・ドル、ロシアのクリプト・ルーブル、スウェーデンのEクローナ、英国のRSコインなど、今や研究をしていない国を探す方が難しく思えるほどです。さらにエストニアなどは他国に先駆け、昨年11月から独自の法定デジタル通貨「eペソ」の試験運用を開始しています。日銀についてはデジタル通貨を発行する具体的な計画はないとしながらも、昨年10月には黒田総裁が「新しい技術を自らのインフラ改善に役立てていく余地がないか、研究を重ねていくことが求められる」と述べました。欧州中央銀行(ECB)と共同で、仮想通貨などに使われる技術の実証実験も進めているようです。

世界主要国の中央銀行で構成されるBIS(国際決済銀行)312日、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の発行に関する調査結果を発表しました。その中でBISは、理解できていないリスクも存在しうるとして、発行にあたっては注意深く徹底的な検討が必要であると慎重な姿勢を示しました。

BISCBDCの形態として、銀行など限られた対象向けの「ホールセール型」のものと、個人も小口決済などに使える「一般利用型」について考察しています。ホールセールCBDCでは効率性やコストの面で進歩が期待できるものの、既存のシステムを根本から大きく揺るがす可能性がより高いのは、一般利用型CBDCでしょう。特に民間の銀行への影響が懸念されます。個人が中央銀行に直接口座を持つことを選好すれば、民間銀行の資金調達に大きな支障が生じるためです。民間銀行の経営が苦しく、資金が特に必要な時ほど、個人の資金が中央銀行に向かいかねず、強烈な中抜きの動きが出ることが想像できます。

BISや日銀、ECBなどがCBDC発行に慎重だとしても、市中での現金流通が極端に減ってCBDCを検討せざるを得ないスウェーデンのような例もあります。現金を流通させるコストを削減したいエストニアの事情には、共感する国もありそうです。何より、国の後ろ盾のない仮想通貨の流通が一層広がれば、中央銀行が操作する金融政策の影響が大幅に減るため、やはり対抗できるCBDCの整備が必要になってくる状況も想定されます。民間の銀行も戦々恐々といったところかもしれません。

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