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予見不能なトランプ政治や世界各地での地政学的リスクにも関わらず、米国経済は未だ健在と見えます。米国の株価は今年に入り一進一退となっているものの、まだ過去最高水準近辺です。雇用環境改善の割には低い伸び率にとどまっていた賃金も、3月には前年同月比で2.7%となり、前月の2.6%から少し加速してきました。しかしそんな好調さの裏で、悪化を続ける数字もあります。

 

中小の銀行でクレジットカードの貸し倒れが急増


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4日付のウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙によると、中小の銀行でのクレジットカードの貸し倒れ率が、リーマンショック以降では最高水準にまで上昇してきているといいます。資産残高で100位以内に入らない下位の銀行では、貸し倒れ率が2017年第3四半期に7.9%となり、同第4四半期も多少は低下したものの、7.17%となりました。大手銀行も含めた全体のクレジットカードの貸し倒れ率もここ2年は緩やかに上昇しているのですが、その比率は昨年第4四半期で3.48%と、過去30年の平均以下にとどまっています。ここから見て取れるのは、大手の銀行が取引相手としない低所得者層で貸し倒れが広がっているということです。甘い審査や融資条件の住宅ローンなどで金融危機を招いたことの教訓から、大手銀行はその後クレジットカードなどでも審査を厳格化しました。大手銀行でカードを作れない低所得者層は高金利であっても中小の銀行に頼ることになり、大手と中小の銀行の間での顧客層の違いが以前以上に際立っている可能性が感じられます。

 

サブプライム自動車ローンの延滞率がリーマンショック時を上回る


リーマンショック時に有名となった「サブプライムローン」という言葉ですが、経済的な信用度が高くない人向けのローンのことを言います。当時は住宅購入に充てたサブプライムローンが危機の起因とされましたが、今は自動車購入用のサブプライムローンで延滞率が大きく上昇してきています。格付け会社フィッチが集計している、60日以上延滞しているサブプライム自動車ローンの比率は今年2月に5.8%となりました。金融危機時の最高は2009年1月の5.04%であり、今の水準は9610月以来の高さです。こうしたサブプライム自動車ローンを積極的に貸し出していた金融会社の多くは規模の小さい専門業者でしたが、延滞率の上昇を受けて経営にはやはり大きな支障が出てきているようです。49日付のビジネスインサイダーの記事によると、既に3つのそうした金融会社が倒産などによって事業を停止したと言います。業界全体でも、延滞率の上昇が目立ち始めた2016年後半からはサブプライム自動車ローンの組成を絞る会社が増えており、これが2017年の米国での自動車販売が8年ぶりに前年比減となった大きな理由の一つと見られています。

 

「モービル・ホーム」向けローンの延滞率も上昇傾向


スイス金融大手UBSの調査によると、移動住宅であるモービル・ホーム向けローンの延滞率が昨年2%上昇したと言います。30日以上支払いが遅れているローンの比率は現在約5%と、2005年以来の高水準です。通常の住宅ローンの延滞率が景気回復の波に乗って引き続き低下傾向にあるのとは対照的な動きです。モービル・ホームはアパートや一戸建てよりも住居費が安いため、低所得者や移民などが多く住んでいるとされます。ここでも低所得者層の家計が、米国経済の表層的な活況と違って、強いストレス下にあることが伺えます。

 

米国経済に与える影響

サブプライム層という言葉に絶対的な定義はありません。ただ一般的に、米国特有の「FICO」という信用スコアが一定のレベル(660620など、いくつかの基準があります)を下回った層がサブプライムとされています。ただ、約5人に1人の米国人がそうした低スコア層なのです。昨年まで8年続いた株高も、資産を持たない層には直接的な恩恵は少なく、トランプ政権が昨年成立させた大型減税もメリットは富裕層に偏っているとされます。より一層の賃金上昇が低所得者層にまで行き渡らなければ、米連邦準備制度理事会FRBが利上げするごとに、サブプライムローンや、延滞率が11%と非常に高い学生ローンで貸し倒れがさらに増えていくことが懸念されます。金融危機時のサブプライム住宅ローンに比べて残高が小さいため、それほど大きな経済問題にはつながらないとする意見も聞かれますが、少なくとも社会問題としては一層注目されるでしょう。

 

また、サブプライム層に貸し出しを行っている銀行以外の専門の金融会社は、その原資を銀行から借り入れています。銀行は金融危機以降、直接的にサブプライムローンのリスクを取ることを避けつつ、金融会社に担保付で融資を行って収益を上げる方針に転換してきました。410日付のWSJ記事によれば、2017年末時点での銀行のノンバンク向け融資はほぼ3450億ドルとなり、2010年から6倍に増えたと言います。銀行の融資分類の中では、今では最大の融資先です。しかし間接的とは言え、銀行が貸し出した資金は貸出先でサブプライムローンに形を変え、そうしたローンがデフォルトして貸出先の経営が悪化すれば、その結果は銀行に戻ってきます。今後はそうした影響がどの程度出てくるのかにも注意が必要かと思われます。

 

ある局面では、金融危機時より厳しい状況に低所得者層を置き去りにしている今回の米国の好景気。そして、所得に関係なく一律に影響を与えるFRBの利上げは今後も続く見通しです。米国経済は見た目は盤石そうですが、水面下では綻びが広がってきているように感じます。

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